ばして、あの長《なが》い嘴《くちばし》が、水《みづ》の面《も》へ衝《つ》と届《とゞ》くや否《いな》や、小船《こぶね》がすら/\と動《うご》きはじめて、音《おと》もなく漕《こ》いで出《で》る。
 見《み》るものは呆《あき》れ果《は》てゝ、どかと濠端《ほりばた》に腰《こし》を掛《か》けた。
 五位鷺《ごゐさぎ》の働《はたら》くこと。船《ふね》一艘《いつそう》漕《こ》ぐなれば、蘆《あし》の穂《ほ》の風《かぜ》に散《ち》る風情《ふぜい》、目《め》にも留《と》まらず、ひら/\と上下《うへした》に翼《つばさ》を煽《あふ》る。と船《ふね》の方《はう》は、落着済《おちつきす》まして夢《ゆめ》の空《そら》を辷《すべ》るやう、……やがて汀《みぎは》を漕《こ》ぎ離《はな》す。
 蘆《あし》の枯葉《かれは》をぬら/\と蒼《あを》ぬめりの水《みづ》が越《こ》して、浮草《うきぐさ》の樺色《かばいろ》まじりに、船脚《ふなあし》が輪《わ》に成《な》る頃《ころ》の、五位鷺《ごゐさぎ》の搏《はう》ちやう。又《また》一《ひと》しきり烈《はげ》しく急《きふ》に、滑《なめら》かな重《おも》い水《みづ》に響《ひゞ》いて、鳴渡《な
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