《はづ》すと、柔《やはら》かな肩《かた》が下《さが》つて、二《に》の腕《うで》がふらりと垂《た》れる。双《さう》の玉《たま》の乳房《ちぶさ》にも、糸一条《いとひとすぢ》の綾《あや》も残《のこ》さず、小脇《こわき》に抱《いだ》くや、此《こ》の彫刻家《てうこくか》の半身《はんしん》は、霞《かすみ》のまゝに山椿《やまつばき》の炎《ほのほ》が※[#「火+發」、75−4]《ぱつ》と搦《から》んだ風情《ふぜい》。
 其《そ》の下襲《したがさ》ねの緋鹿子《ひがのこ》に、足手《あして》の雪《ゆき》が照映《てりは》えて、女《をんな》の膚《はだえ》は朝桜《あさざくら》、白雲《しらくも》の裏《うら》越《こ》す日《ひ》の影《かげ》、血《ち》も通《かよ》ふ、と見《み》る内《うち》に、男《をとこ》の顔《かほ》は蒼《あを》く成《な》つた。――女《をんな》の像《ざう》の片腕《かたうで》が、肱《ひぢ》の処《ところ》から、切《き》れ目《め》赤《あか》う、さゝら立《だ》つて折《を》られて居《ゐ》た。
「わツ、」と叫《さけ》んで、其《そ》の咽喉《のど》を掴《つか》んだまゝ、投《な》げ附《つ》けやうとして振挙《ふりあ》げた手《
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