通《かよ》はない、脉《みやく》もない、魂《たましひ》のない、たかゞ木屑《きくづ》の木像《もくざう》だ。」
と興覚顔《きようざめがほ》して、天守《てんしゆ》を仰《あふ》いで、又《また》俯向《うつむ》き、
「何《なん》だ、これは、魔物《まもの》が言《い》ひさうな事《こと》を己《おれ》が言《い》ふ、自分《じぶん》が言《い》ふ、我《われ》と我《わ》が口《くち》で詈《のゝし》るな。おゝ、自然《しぜん》と敵《てき》の意《い》を体《たい》して、自《みづ》から、罵倒《ばたう》するやうな木像《もくざう》では、前方《さき》が約束《やくそく》を遂《と》げんのも無理《むり》はない……駄物《だもの》、駄物《だもの》、駄物《だもの》、」
と三舎《さんしや》を避《さ》ける足取《あしどり》で、たぢ/\と後退《あとずさ》りして、
「さあ、恁《か》うなれば、お浦《うら》の紀念《かたみ》の方《はう》が大事《だいじ》だ。よくも、おのれ、ぬく/\と衣服《きもの》を着《き》た。」と言《い》ふ/\※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》るが如《ごと》く衣紋《えもん》を開《ひら》いて帯《おび》をかなぐり、袖《そで》を外
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