する。まるで取替《とりか》へる価《あたひ》がないと言《い》へば其《それ》までだ、――あゝ、其《それ》がために、旧通《もとどほ》りお浦《うら》を隠《かく》して、此《こ》の木像《もくざう》を突返《つきかへ》したのか。己《おれ》は夢中《むちゆう》で、此《これ》を恋《こひ》しい婦《をんな》だ、と思《おも》つて、うか/\抱《だ》いて返《かへ》つたのか、然《さ》うかも知《し》れん。
 其《それ》では、劣作《れつさく》だと言《い》ふのだな、駄物《だもの》だ、と言《い》ふのだな、劣作《れつさく》か、駄物《だもの》か、此奴《こいつ》。」
と首《くび》を引向《ひきむ》け胸《むね》に抱《いだ》いて、血走《ちばし》つた目《め》で屹《きつ》と其《そ》の顔《かほ》を。
「己《おれ》が、此《こ》の心《こゝろ》も知《し》らずに、けろりとして済《す》ました面《つら》よ。おのれ石《いし》でも、己《おれ》が此《こ》の心《こゝろ》を汲《く》んで、睫毛《まつげ》に露《つゆ》も宿《やど》さないか。霞《かすみ》にも曇《くも》らぬ瞳《ひとみ》は、蒟蒻玉《こんにやくだま》同然《どうぜん》だ。――其《それ》も道理《だうり》よ、血《ち》も
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