く、横歩行《よこあるき》に、ふら/\して、前《まへ》へ出《で》たり、退《すさ》つたり、且《か》つ蹌踉《よろ》めき、且《か》つ独言《ひとりごと》するのである。
「畜生《ちくしやう》、人《ひと》の女房《にようばう》を奪《うば》つた畜生《ちくしやう》、魔物《まもの》に義理《ぎり》はあるまいが、約束《やくそく》を違《たが》へて済《す》むか、……何《なん》と言《い》つて約束《やくそく》した――婦《をんな》の彫像《てうざう》を拵《こしら》へろ、其《そ》の形代《かたしろ》を持《も》つて来《こ》い。お浦《うら》を返《かへ》すと言《い》つたのを忘《わす》れたか、忘《わす》れたのか。」
と其《そ》の握拳《にぎりこぶし》で、己《おの》が膝《ひざ》を礑《はた》と打《う》つたが、力《ちから》余《あま》つて背後《うしろ》へ蹌踉《よろ》ける、と石垣《いしがき》も天守《てんしゆ》も霞《かすみ》に揺《ゆ》れる。
「待《ま》てよ。雖然《けれども》、自分《じぶん》の製作《こしら》へた此《こ》の像《ざう》だ、これが、もし価値《ねうち》に積《つも》つて、あの、お浦《うら》より、遥《はるか》に劣《おと》つて居《ゐ》たら何《ど》う
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