》くぶらりと成《な》る。
三
青年《わかもの》は半狂乱《はんきやうらん》の躰《てい》で、地韜《ぢだんだ》を踏《ふ》んで歯噛《はがみ》をした。
「おのれえ、魔《ま》でも、鬼《おに》でも、約束《やくそく》を違《たが》へる、と言《い》ふ不都合《ふつがふ》があるか、何《なん》と言《い》つた、何《なん》と言《い》つた。」
と詰《なじ》るが如《ごと》くに掠《かす》れ声《ごゑ》して、手《て》を握《にぎ》つて、空《くう》を打《う》つて、天守《てんしゆ》の屋根《やね》を睨《にら》んで喚《わめ》いた。大手筋《おほてすぢ》を下切《おりき》つた濠端《ほりばた》に――まだ明果《あけは》てない、海《うみ》のやうな、山中《さんちゆう》の原《はら》を背後《うしろ》にして――朝虹《あさにじ》に鱗《うろこ》したやうに一方《いつぱう》の谷《たに》から湧上《わきあが》る向《むか》ふ岸《ぎし》なる石垣《いしがき》越《ごし》に、其《そ》の天守《てんしゆ》に向《むか》つて喚《わめ》く……
喚《わめ》くが、しかし、一騎《いつき》朝蒐《あさがけ》で、敵《てき》を詈《のゝし》る勇《いさ》ましい様子《やうす》はな
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