て》の、筋《すぢ》が釣《つ》つて棒《ぼう》の如《ごと》くに衝《つ》と挙《あ》げると、女《をんな》の像《ざう》は鶴《つる》のやうに、ちら/\と髪《かみ》黒《くろ》く、青年《わかもの》の肩越《かたごし》に翼《つばさ》を乱《みだ》して飜《ひるがへ》つた。
が、其《そ》のまゝには振飛《ふりと》ばさず。濠《ほり》を越《こ》して遥《はる》かな石垣《いしがき》の只中《たゞなか》へも叩《たゝ》きつけさうだつた勢《いきほひ》も失《う》せて――猶予《ためら》ふ状《さま》して……ト下《した》を見《み》る足許《あしもと》を、然《さ》まで下《くだ》らず、此方《こなた》は低《ひく》い濠《ほり》の岸《きし》の、すぐ灰色《はいいろ》の水《みづ》に成《な》る、角組《つのぐ》んだ蘆《あし》の上《うへ》へ、引上《ひきあ》げたか、浮《うか》べたか、水《みづ》のじと/\とある縁《へり》にかけて、小船《こぶね》が一艘《いつそう》、底《そこ》つた形《かたち》は、処《ところ》がら名《な》も知《し》れぬ大《おほい》なる魚《うを》の、がくり、と歯《は》を噛《か》んだ白髑髏《しやれかうべ》のやうなのがある。
四
前へ
次へ
全284ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング