常《じんじやう》な、婦《をんな》の人《ひと》ほどに見《み》えつけ。等身《とうしん》のお祖師様《そしさま》もござれば丈六《ぢやうろく》の弥陀仏《みだぶつ》も居《ゐ》さつしやる。――これ人形《にんぎやう》は、はい、玩具箱《おもちやばこ》ウ引転返《ひつくりかへ》した中《なか》からばかり出《で》るもんではねえで、其《そ》の、見事《みごと》なに不思議《ふしぎ》は無《な》いだが、心配《しんぱい》するな木彫《きぼり》だ、と言《い》はつしやる、……お前様《めえさま》が持《も》つて来《き》て、船《ふね》の中《なか》へ置《お》かしつたかな。」
「何《なに》、打棄《うつちや》つたんだ。」と青年《わかもの》は口惜《くや》しさうに言《い》つた。
「打棄《うつちや》らしつたえ、持重《もちおも》りが為《し》たゞかね。」
とけろりとして、目《め》を離《はな》れた白《しろ》い眉《まゆ》をふつさり揺《ゆす》る。
 青年《わかもの》はじり/\と寄《よ》つた。
「で、老爺《ぢい》さん、何《なに》か、君《きみ》は活《い》きた人間《にんげん》で無《な》いから安堵《あんど》したと言《い》つたね、今《いま》の船《ふね》には係合《かゝりあひ》でもある人《ひと》か。」
「係合《かゝりあひ》にも何《なん》にも、私《わし》船《ふね》の持主《もちぬし》でがすよ。」
「此《こ》の、魔物《まもの》。」
と青年《わかもの》は、然《さ》知《し》つた見得《みえ》に、後退《あとずさ》りしながら身構《みがま》へして、
「嬲《なぶ》るな。人《ひと》が生死《いきしに》の間《あひだ》に彷徨《さまよ》ふ処《ところ》を、玩弄《おもちや》にするのは残酷《ざんこく》だ。貴様《きさま》たちにも釘《くぎ》の折《をれ》ほど情《なさけ》が有《あ》るなら、一思《ひとおも》ひに殺《ころ》して了《しま》へ。さあ、引裂《ひきさ》け、片手《かたて》を※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《も》げ……」とはたと睨《にら》む。
「旦那々々《だんな/\》、」
「何《なに》が旦那《だんな》だ。捕虜《ほりよ》と言《い》へ、奴隷《どれい》と呼《よ》べ、弱者《じやくしや》と嘲《あざけ》れ。夢《ゆめ》か、現《うつゝ》か、分《わか》らん、俺《おれ》は迚《とて》も貴様達《きさまたち》に抵抗《てむかひ》する力《ちから》はない。残念《ざんねん》だが、貴様《きさま》に向《むか》ふと手足
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