しゆ》に於《おい》ては、予《かね》て貴女《あなた》と双六《すごろく》を打《う》つて慰《なぐさ》みたいが、御承知《ごしようち》なければ、致《いたし》やうも無《な》かつた折《をり》から……丁《ちやう》ど僥倖《さいはひ》、いや固《もと》より、固《もと》より望《のぞ》み申《まを》す処《ところ》……とある!」
四十四
美女《たをやめ》は世《よ》にも嬉《うれ》しげに……早《は》や頼《たの》まれて人《ひと》を救《すく》ふ、善根《ぜんこん》功徳《くどく》を仕遂《しと》げた如《ごと》く微笑《ほゝゑ》みながら、左右《さいう》に、雪枝《ゆきえ》と老爺《ぢい》とを艶麗《あでやか》に見《み》て、清《すゞ》しい瞳《ひとみ》を目配《めくば》せした。
「そんなら、私《わたし》が勝《か》ちましたら、奥様《おくさま》をお返《かへ》しなさいますね。」
「御念《ごねん》に及《およ》ばぬ、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の底《そこ》に湧《わ》く……霊泉《れいせん》に浴《ゆあみ》させて、傷《きづ》もなく疲労《つかれ》もなく苦悩《くなう》もなく、健《すこや》かにしてお返《かへ》し申《まを》す。」
美女《たをやめ》は、十二《じふに》の数《かず》の、黄《き》と紫《むらさき》を、両方《りやうはう》へ、颯《さつ》と分《わ》けて、
「天守《てんしゆ》のお方《かた》。どちらの駒《こま》を……」
「赫耀《かくやく》として日《ひ》に輝《かゞや》く、黄金《わうごん》の花《はな》は勝色《かちいろ》、鼓草《たんぽゝ》を私《わし》が方《はう》へ。」
と痩《や》せた頬《ほゝ》げたの膨《ふく》らむまで、坊主《ばうず》は浮色《うきいろ》に成《な》つて笑《ゑみ》を含《ふく》んで、駒《こま》を二《ふた》つづゝ六行《ろくぎやう》に。
同《おな》じく二《ふた》つづゝ六行《ろくぎやう》に……紫《むらさき》の格子《かうし》に並《なら》べた。
「紫《むらさき》は朱《あけ》を奪《うば》ふ、お姫様《ひめさま》菫《すみれ》の花《はな》が、勝負事《しようぶごと》には勝色《かちいろ》ぢや。」
と老爺《ぢい》は盤面《ばんめん》を差覗《さしのぞ》いて、坊主《ばうず》を流盻《しりめ》に勇《いさ》んだ顔色《かほつき》。
これに苦笑《にがわら》ひ為《し》て口《くち》を結《むす》んだ、坊主《ばうず》は心急《こゝろせ》く様子《やうす》が見《み》えて、
「
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