》な女《をんな》を握《にぎ》つて居《ゐ》るのぢや。可《よ》いか、其《それ》に代《か》へやうと言《い》ふからには、蛍《ほたる》と星《ほし》、塵《ちり》と山《やま》、露《つゆ》一滴《いつてき》と、大海《だいかい》の潮《うしほ》ほど、抜群《ばつぐん》に勝《すぐ》れた立優《たちまさ》つたもので無《な》いからには、何《なに》を又《また》物好《ものず》きに美女《びぢよ》を木像《もくざう》と取《と》り代《か》へやう。
彫刻《ほり》した鮒《ふな》の泳《およ》ぐも可《よ》い。面白《おもしろ》うないとは言《い》はぬが、煎《に》る、焼《や》く、或《あるひ》は生《なま》のまゝ其《そ》の肉《にく》を※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]《くら》はうと思《おも》ふものに、料理《りやうり》をすれば、炭《すみ》に成《な》る、灰《はひ》に成《な》る、木《き》の切《きれ》を何《なに》にせい、と言《い》ふ了見《れうけん》だ。
悪魔《あくま》は今《いま》其《そ》の肉《にく》を欲《ほつ》する、血《ち》を求《もと》むる……仏《ほとけ》が鬼女《きぢよ》を降伏《がうぶく》してさへ、人肉《じんにく》のかはりにと、柘榴《ざくろ》を与《あた》へたと言《い》ふでは無《な》いか。
既《すで》に目指《めざ》す美女《びぢよ》を囚《とら》へて、思《おも》ふがまゝに勝矜《かちほこ》つた対手《あひて》に向《むか》ふて、要《い》らぬ償《つくな》ひの詮議《せんぎ》は留《や》めろ。
何《ど》うぢや、それとも、御身達《おみたち》に、煙草《たばこ》の吸殻《すゐがら》を太陽《たいやう》の炎《ほのほ》に変《か》へ、悪魔《あくま》の煩脳《ぼんなう》を焼亡《やきほろ》ぼいて美女《びぢよ》を助《たす》ける工夫《くふう》があるか、すりや格別《かくべつ》ぢや。よもあるまい。有《あ》るか、無《な》からう。……
それ、徒労力《むだぼね》と言《い》ふ事《こと》よ! 要《えう》もない仕事三昧《しごとざんまい》打棄《うつちや》つて、少《わか》い人《ひと》は妻《つま》を思切《おもひき》つて立帰《たちかへ》れえ。老爺《おやぢ》も要《い》らぬ尻押《しりおし》せず、柔順《すなほ》に妻《つま》を捧《さゝ》げるやうに、少《わか》いものを説得《せつとく》せい。
勝手《かつて》に木像《もくざう》を刻《きざ》まば刻《きざ》め、天晴《あつぱ》れ出来《でか》したと思《おも
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