剰銭《つりせん》を取《と》る年《とし》で、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の女《をんな》の影《かげ》に憂身《うきみ》を窶《やつ》すお庇《かげ》には、動《うご》く、働《はたら》く、彫刻物《ほりもの》は活《い》きて歩行《ある》く……独《ひと》りですら/\と天守《てんしゆ》へ上《あが》つて、魔物《まもの》の閨《ねや》に推参《すゐさん》する、が、張《はり》も意地《いぢ》も着《つ》いて居《を》るぞ、其《そ》の時《とき》嫌《きら》はれぬ用心《ようじん》さつせえ、と御坊《ごばう》に言托《ことづけ》を頼《たの》まうかい。』
『可《よ》い、可《よ》い。』
ニヤ/\と両《りやう》の頬《ほゝ》を暗《くら》くして、あの三日月形《みかづきなり》の大口《おほぐち》を、食反《くひそ》らして結《むす》んだまゝ、口元《くちもと》をひく/\と舌《した》の赤《あか》う飜《かへ》るまで、蠢《うご》めかせた笑《わら》ひ方《かた》で、
『面白《おもしろ》い! 旅《たび》のものぢやが、其《それ》も聞《き》いた。此方《こなた》が手遊《てあそ》びに拵《こしら》える、五位鷺《ごゐさぎ》の船頭《せんどう》は、翼《つばさ》で舵取《かぢと》り、嘴《くちばし》で漕《こ》いで、水《みづ》の中《なか》で火《ひ》を吐《は》くとな………』
『天守《てんしゆ》の上《うへ》から御覧《ごらん》なされ、太夫《たいふ》ほんの前芸《まへげい》にござります、ヘツヘツヘツ』とチヨンと頭《かしら》を下《さ》げて揉手《もみで》を為《し》て言《い》ふ。
『おゝ、其《そ》の面魂《つらだましひ》頼母《たのも》しい。満更《まんざら》の嘘《うそ》とは思《おも》はん。成程《なるほど》此方《こなた》が造《つく》つた像《ざう》は、目《め》も瞬《またゝ》かう、歩行《ある》かう、厭《いや》なものには拗《す》ねもせう。……然《さ》れば御身《おみ》は、少《わか》いものゝ尻圧《しりおし》して石《いし》に成《な》るまでも働《はたら》け、と励《はげ》ますのぢや。で、唆《そゝの》かすとは思《おも》ふまい。徒労力《むだぼね》をさせるとは知《し》るまい。が、私《わし》は、無駄《むだ》ぢや留《や》めい、と勧《すゝ》める……其《そ》の理由《わけ》を言《い》うて聞《き》かさう。
其処《そこ》で、老爺《おやぢ》、』
『おい、』
『御身《おみ》が言《い》ふ、其《そ》の像《ざう》には血《ち》が通《かよ
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