《も》ち来《こ》い、返《かへ》して遣《や》ると、恁《か》うだんべい。
さ、其処《そこ》ぢやい! 其処《そこ》どころぢやに因《よ》つて私《わし》が後見《かうけん》助言《じよごん》の為《し》て、勝《すぐ》れた、優《まさ》つた、新《あたら》しい、……可《いゝ》かの、生命《いのち》のある……肉附《にくづき》もふつくりと、脚腰《あしこし》もすんなりした、膚《はだ》の佳《い》い、月《つき》に立《た》てば玉《たま》のやう、日《ひ》に向《むか》へば雪《ゆき》のやうな、へい、魔王殿《まわうどの》が一目《ひとめ》見《み》たら、松脂《まつやに》の涎《よだれ》を流《なが》いて、魂《たましひ》が夜這星《よばひぼし》に成《な》つて飛《と》ぶ……乳《ちゝ》の白《しろ》い、爪紅《つめべに》の赤《あか》い奴《やつ》を製作《こさ》へると言《い》はぬかい!
少《わか》いものを唆《そゝの》かして、徒労力《むだぼね》を折《を》らせると何故《あぜ》で言《い》ふのぢや。御坊《ごばう》、飛騨山《ひだやま》の菊松《きくまつ》が、烏帽子《えばうし》を冠《かぶ》つて、向顱巻《むかふはちまき》を為《し》て手伝《てつだ》つて、見事《みごと》に仕上《しあ》げさせたら何《なん》とする。』
『然《さ》れば、言《い》ふ通《とほ》りに仕上《しあが》つて、其処《そこ》で其《そ》の木像《もくざう》が動《うご》くかな、目《め》を働《はたら》かすかな、指《さ》す手《て》は伸《の》び、引《ひ》く手《て》は曲《まが》るか、足《あし》は何《ど》うじや、歩行《ある》くかな。』
と皆《みな》まで言《い》はせず、老爺《ぢい》が其《そ》の眉《まゆ》、白銀《しろがね》の如《ごと》き光《ひかり》を帯《お》びて、太陽《ひ》に向《むか》ふ目《め》を輝《かゞや》かした。手拍子《てべうし》拍《う》つやう、腰《こし》の麻袋《あさぶくろ》をはた/\と敲《たゝ》いたが、鬼《おに》に向《むか》つて臀《いしき》を掻《か》く、大胆不敵《だいたんふてき》の状《さま》が見《み》えた。
『天守《てんしゆ》の魔物《まもの》は何時《いつ》から棲《す》むよ。飛騨国《ひだのくに》の住人《じうにん》日本《につぽん》の刻彫師《ほりものし》、尾《を》ヶ|瀬《せ》菊之丞《きくのじやう》孫《まご》の菊松《きくまつ》、行年《ぎやうねん》積《つも》つて七十一歳《しちじふいつさい》。極楽《ごくらく》から
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