から》ひ、疾《と》く水車《みづぐるま》の如《ごと》くに廻転《くわいてん》して、水《みづ》は宛然《さながら》其《そ》の破《やぶ》れ目《め》を走《はし》り抜《ぬ》けて、斜《なゝ》めに黄色《きいろ》な雪《ゆき》が散《ち》つた。や、何《ど》うも案山子《かゝし》の飛《と》ぶこと、ひよろつく事《こと》!
此《これ》を見《み》よ、人々《ひと/″\》。――
で、月《つき》が三《み》ツ四《よ》ツ出《で》て路《みち》を照《て》らすのも、案山子《かゝし》が飛《と》ぶのも、傘《からかさ》の車《くるま》も、其《そ》の車《くるま》に、と反身《そりみ》で、斜《しや》に構《かま》へて乗《の》つた像《ざう》の活《い》けるが如《ごと》きも、一切《すべて》自分《じぶん》の神通力《じんつうりき》の如《ごと》くに感《かん》じて、寝静《ねしづ》まつた宿屋《やどや》の方《はう》へ拳《こぶし》を突出《つきだ》して呵々《から/\》と笑《わら》つた。
『此《これ》を見《み》よ、人々《ひと/″\》。』
其時《そのとき》車《くるま》を真中《まんなか》に、案山子《かゝし》の列《れつ》は橋《はし》にかゝつた。……瀬《せ》の音《おと》を横切《よこぎ》つて、竹《たけ》の脚《あし》を、蹌踉《よろ》めく癖《くせ》に、小賢《こざか》しくも案山子《かゝし》の同勢《どうぜい》橋板《はしいた》を、どゞろ/\とゞろと鳴《な》らす。
『寝《ね》て居《ゐ》るに騒《さわ》がしい。』
と欄干《らんかん》が声《こゑ》を懸《か》けた。
『あゝ、気《き》の毒《どく》だ。』
とうつかり人間《にんげん》の雪枝《ゆきえ》が答《こた》へた。おや、と心着《こゝろづ》くと最《も》うざんざと川水《かはみづ》。
まだ可怪《おかし》かつたのは、一行《いつかう》が、其《それ》から過般《いつか》の、あの、城山《しろやま》へ上《のぼ》る取着《とつつき》の石段《いしだん》に懸《かゝ》つた時《とき》で。是《これ》から推上《おしあが》らうと云《い》ふのに一呼吸《ひといき》つくらしく、フト停《と》まると、中《なか》でも不精《ぶせう》らしい簑《みの》の裾《すそ》の長《なが》いのが、雲《くも》のやうに渦《うづま》いた段《だん》の下《した》の、大木《たいぼく》の槐《えんじゆ》の幹《みき》に恁懸《よりかゝ》つて、ごそりと身動《みうご》きをしたと思《おも》へ。
『わい、擽《くすぐつ》てえ。
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