鳴《な》つて、其《そ》の藁屋《わらや》の廂《ひさし》から、畷《なはて》へばさりと落《お》ちたものがある、続《つゞ》いて又《また》一《ひと》つばさりとお出《で》やる。
鳥《とり》か獣《けもの》か、こゝにバサリと名《な》づくるものが住《す》んで、案山子《かゝし》に呼出《よびだ》されたのであらう、と思《おも》つたが、やがて其《それ》が二《ふた》つが並《なら》んで、真直《まつすぐ》にひよいと立《た》つ、と左右《さいう》へ倒《たふ》れざまに、又《また》ばさりと言つた。が、名《な》ではない。ばさりと称《とな》へたは其《そ》の音《おと》で、正体《しやうたい》は二本《にほん》の番傘《ばんがさ》、ト蛇《じや》の目《め》に開《ひら》いたは可《いゝ》が、古御所《ふるごしよ》の簾《すだれ》めいて、ばら/\に裂《さ》けて居《ゐ》る。
三十四
唯《と》見《み》ると、両方《りやうはう》から柄《え》を合《あ》はせて、しつくり組《く》むだ。其《そ》の破《やぶ》れ傘《がさ》が輪《わ》に成《な》つて、畷《なはて》をぐる/\と廻《まは》つて丁《ちやう》と留《と》まる。
案山子《かゝし》が三《み》ツ四《よ》ツ、ふら/\と取巻《とりま》いて、
『乗《の》つされ。』
『お人形《にんぎやう》、乗《の》つせえ。』と言《い》ふ。
『はゝあ、載《の》せろ、と言《い》ふのか、面白《おもしろ》い。』
案《あん》ずるに、此《こ》の車《くるま》を以《も》つて、我《わ》が作品《さくひん》を礼《れい》するのであらう。其《そ》の厚志《かうし》、敢《あへ》て、輿《こし》と駕籠《かご》と破《やぶ》れ傘《がさ》とを択《えら》ばぬ。其処《そこ》で彫像《てうざう》の脇《わき》を抱《だ》いて、傘《からかさ》の柄《え》に腰《こし》を据《す》えると、不思議《ふしぎ》や、裾《すそ》も開《ひら》かず、肩《かた》も反《そ》らず……膠《にかは》で着《つ》けたやうに整然《ちやん》と乗《の》つた、同時《どうじ》にくる/\と傘《からかさ》が廻《まは》つて、さつさと行《ゆ》く……
やがて温泉《いでゆ》の宿《やど》を前途《ゆくて》に望《のぞ》んで、傍《かたはら》に谿河《たにがは》の、恰《あたか》も銀河《ぎんが》の砕《くだ》けて山《やま》を貫《つらぬ》くが如《ごと》きを見《み》た時《とき》、傘《からかさ》の輪《わ》は流《ながれ》に逆《さ
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