》つた幼《おさな》い時《とき》の運命《うんめい》が、形《かたち》に出《で》て顕《あら》はれた……雨《あめ》も此《こ》の朧夜《おぼろよ》を、細《ほそ》く微《かすか》な雪《ゆき》のやうに白《しろ》く野山《のやま》に降懸《ふりかゝ》つた。
『出懸《でか》けるぞ、案内《あんない》するか、続《つゞ》いて来《く》るか。』
案山子《かゝし》どもは藁《わら》の乱《みだ》れた煙《けむり》の如《ごと》く、前後《あとさき》にふら/\附添《つきそ》ふ。……而《そ》して祠《ほこら》の樹立《こだち》を出離《ではな》れる時分《じぶん》から、希有《けう》な一行《いつかう》の間《あひだ》に、二《ふた》ツ三《み》ツ灯《あかり》が点《つ》いたが、光《ひかり》が有《あ》りとも見《み》えず、ものを映《うつ》さぬでも無《な》い。たとへば月《つき》の其《そ》の本尊《ほんぞん》が霞《かす》んで了《しま》つて、田毎《たごと》に宿《やど》る影《かげ》ばかり、縦《たて》に雨《あめ》の中《なか》へふつと映《うつ》る、宵《よひ》に見《み》た土器色《かはらけいろ》の月《つき》が幾《いく》つにも成《な》つて出《で》たらしい。
其《それ》が案山子《かゝし》どもの行《ゆ》く方《はう》へ、進《すゝ》めば進《すゝ》み、移《うつ》れば移《うつ》り、路《みち》を曲《まが》る時《とき》なぞは、スイと前《まへ》へ飛《と》んで、一寸《ちよいと》停《と》まつて、土器色《かはらけいろ》を赫《くわつ》として待《ま》つ。ともすれば曇《くも》ることもあつた。此《こ》の灯《ひ》はひく/\呼吸《いき》を吐《つ》く、と見《み》えた。
低《ひく》い藁屋《わらや》が二三軒《にさんげん》、煙出《けむだ》しの口《くち》も開《あ》かず、目《め》もなしに、暗《やみ》から潜出《もぐりだ》した獣《けもの》のやうに蹲《つくば》つて、寂《しん》と寝《ね》て居《ゐ》る前《まへ》を通《とほ》つた時《とき》。
『ばツさ、ばツさ。』
簑《みの》を鳴《な》らしたのではない。案山子《かゝし》の一《ひと》つが、最《も》う耳《みゝ》に馴《な》れて遠慮《ゑんりよ》のない口《くち》を開《あ》けた。
『ばつさよ、ばつさよ。』
『コーコー、来《こ》ーい、来《こ》い。』
と最一《もひと》つ※[#「口+堯」、152−15]舌《しやべ》つた。
ばさりと言《い》ふのが、ばさりと聞《き》こえて、ばさりと
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