ういつき》の怨霊《おんりやう》か、と思《おも》ひ附《つ》く。其《そ》の莚旗《むしろはた》を挙《あ》げたのが此《こ》の祠《ほこら》であらうも知《し》れぬ。――が、何《なに》を求《もと》むる? 其《そ》の意《い》を得《え》ない。熟《じつ》と瞻《みつむ》れば、右《みぎ》から左《ひだり》から階《きざはし》の前《まへ》へ、ぞろ/\と寄《よ》つた……簑《みの》の摺合《すれあ》ふ音《おと》して、
『うけとろ、』
『受《う》け取《と》らう。』
『おねんご受取《うけと》ろ。』と言《い》ふのが、何処《どこ》から出《で》る声《こゑ》か、一本竹《いつぽんだけ》で立《た》つた地《ち》の中《なか》から、ぶる/\湧出《わきだ》す。
『おゝ、』
と思《おも》はず合点《がつてん》した。
『人形《にんぎやう》か、此《こ》の彫像《てうざう》を受《う》け取《と》らうと言《い》ふのか?』
中《なか》にも笠《かさ》ある案山子《かゝし》の頷《うなづ》くのが、ぱく/\動《うご》く。其《それ》は途中《とちゆう》からの馴染《なじみ》らしい。
『おゝさう、おぶおう、おぶさう。』と野良《のら》な音《おん》。恰《あたか》も、おゝ、然《さ》う負《おぶ》はう、負《おぶ》され、と云《い》ふが如《ごと》し。
『可《よし》、可《よし》、』
で、衣服《きもの》を被《か》け、彫像《てうざう》を抱《いだ》いたなり、狐格子《きつねがうし》を更《あらた》めて開《ひら》いて立出《たちいで》たつる、
『おい、案山子《かゝし》ども、』
と真面目《まじめ》に遣《や》つた。今《いま》思《おも》へば、……言《い》ふまでも無《な》く何《ど》うかして居《ゐ》る。
『御苦労《ごくらう》、御厚意《ごかうい》は受取《うけと》つたが、己《おれ》の刻《きざ》んだ此《こ》の婦《をんな》は活《い》きとるぞ。貴様《きさま》たちに持運《もちはこ》ばれては血《ち》の道《みち》を起《おこ》さう、自分《じぶん》でおんぶだ。』
と高笑《たかわら》ひをして、其処《そこ》で肩《かた》の上《うへ》に揺上《ゆすりあ》げた。抱《だ》いても腕《うで》に乗《の》つたのに……と肩越《かたごし》に見上《みあ》げた時《とき》、天井《てんじやう》の蔭《かげ》に髪《かみ》も黒《くろ》く上《うへ》から覗込《のぞきこ》むやうに見《み》えたので、歴然《あり/\》と、自分《じぶん》が彫刻師《てうこくし》に成《な
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