ざう》を刻《きざ》みはじめた。が、又《また》此《こ》の作《さく》に対《たい》する迫害《はくがい》は一通《ひととほ》りではないのであつた。猫《ねこ》が来《き》て踏《ふ》んで行抜《ゆきぬ》ける、鼠《ねずみ》が噛《かじ》る。とろ/\と睡《ねむ》つて覚《さ》めれば、犬《いぬ》が来《き》てぺろ/\と嘗《な》めて居《ゐ》る……胴中《どうなか》を蛇《へび》が巻《ま》く、今《いま》穴《あな》を出《で》たらしい家守《やもり》が来《き》て鼻《はな》の上《うへ》を縦《たて》にのたくる……やがては作者《さくしや》の身躰《からだ》を襲《おそ》ふて、手《て》をゆすぶる、襟頸《ゑりくび》を取《と》つて引倒《ひきたふ》す、何者《なにもの》か知《し》れずキチ/\と啼《な》いて脇《わき》の下《した》をこそぐり掛《か》ける。
無残《むざん》や、其《そ》の中《なか》にも命《いのち》を懸《か》けて、漸《やつ》と五躰《ごたい》を調《とゝの》へたのが、指《ゆび》が折《を》れる、乳首《ちくび》が欠《か》ける、耳《みゝ》が※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《も》げる、――これは我《わ》が手《て》に打砕《うちくだ》いた、其《そ》の斧《をの》を揮《ふる》つた時《とき》、さく/\さゝらに成《な》り行《ゆ》く像《ざう》は、骨《ほね》を裂《さ》く音《おと》がして、物凄《ものすご》く飛騨山《ひだやま》の谺《こだま》に響《ひゞ》いた。
其《そ》の夜更《よふ》けから、しばらく正躰《しやうたい》を失《うしな》つたが、時《とき》も知《し》らず我《われ》に返《かへ》ると、忽《たちま》ち第三番目《だいさんばんめ》を作《つく》りはじめた、……時《とき》に祠《ほこら》の前《まへ》の鳥居《とりゐ》は倒《たふ》れて、朽《く》ちたる縄《なは》は、ほろ/\と断《き》れて跡《あと》もなく成《な》る。……
と今度《こんど》のは完成《くわんせい》した。而《そ》して本堂《ほんだう》の正面《しやうめん》に、支《さゝえ》も置《お》かず、内端《うちは》に組《く》んだ、肉《にく》づきのしまつた、膝《ひざ》脛《はぎ》の釣合《つりあひ》よく、すつくりと立《た》つた時《とき》、木《き》の膚《はだえ》は小刀《こがたな》の冴《さえ》に、恰《あたか》も霜《しも》の如《ごと》く白《しろ》く見《み》えた。……が扉《とびら》を開《ひら》いて、伝説《でんせつ》なき縁起
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