ばま》つて両方《りやうはう》へ刎《は》ねた処《ところ》が、宛然《さながら》の翼《つばさ》。
『権七《ごんしち》ぢやない! 小天狗《こてんぐ》が、天守《てんしゆ》から見張《みは》りに来《き》たな。』
 思《おも》はず突立《つゝた》つと、出来《でき》かゝつた像《ざう》を覗《のぞ》いて、角《つの》を扁平《ひらた》くしたやうな小鼻《こばな》を、ひいくひいく、……ふツふツはツはツと息《いき》を吹《ふ》いて居《ゐ》たのが、尖《とが》つた口《くち》を仰様《のけざま》に一《ひと》つぶるツと振《ふる》ふと、面《めん》を倒《さかさま》にしたと思《おも》へ。
 彫像《てうざう》の眼球《がんきう》をグサリと刺《さ》した。
 はつと思《おも》へば、烏《からす》ほどの真黒《まつくろ》な鳥《とり》が一羽《いちは》虫蝕《むしくひ》だらけの格天井《がうでんじやう》を颯《さつ》と掠《かす》めて狐格子《きつねがうし》をばさりと飛出《とびだ》す……
 目《め》一《ひと》つ抉《えぐ》られては半身《はんしん》をけづり去《さ》られたも同《おな》じ事《こと》、是《これ》がために、第一《だいいち》の作《さく》は不用《ふよう》に帰《き》した。
 ……余《あま》りの仕儀《しぎ》に唯《たゞ》茫然《ばうぜん》として、果《はて》は涙《なみだ》を流《なが》したが、いや/\、爰《こゝ》に形《かたち》づくられた未製品《みせいひん》は、其《そ》の容《かたち》半《なか》ばにして、早《はや》くも何処《どこ》にか破綻《はたん》を生《しやう》じて、我《わ》が作《さく》を欲《ほつ》するものゝ、不満足《ふまんぞく》を来《き》たしたのであらう――いかさまにも一《ひと》つ残《のこ》つた瞳《ひとみ》を見《み》れば、お浦《うら》の其《それ》より情《なさけ》を宿《やど》さぬ、露《つゆ》も帯《お》びぬ、……手足《てあし》既《すで》に完《まつた》うして斧《をの》を以《もつ》て砕《くだ》かれても、対手《あひて》が鬼神《きじん》では文句《もんく》はない筈《はづ》。力《ちから》を傾《かたむ》け尽《つく》さぬうち、予《あらかじ》め其《そ》の欠点《けつてん》を指示《さししめ》して一思《ひとおも》ひに未練《みれん》を棄《す》てさせたは、寧《むし》ろ尠《すくな》からぬ慈悲《じひ》である……
 で、直《たゞ》ちに木材《もくざい》を伐更《きりあらた》めて、第二《だいに》の像《
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