べり》を伸《の》べたり、毛布《けつと》を敷《し》く……
『私《わし》が頼《たの》まれましたけに、ちよく/\見廻《みまは》りに参《めえ》りますだ。用《よう》があるなら、言着《いひつ》けてくらつせえましよ。』
と背後《うしろ》むきに踵《かゝと》で探《さぐ》つて、草履《ざうり》を穿《は》いて、壇《だん》を下《お》りて、てく/\出《で》て行《ゆ》く。
『待《ま》て、待《ま》て。』と追《お》つて出《で》て、鳥居《とりゐ》をする/\と撫《な》でゝ見《み》せた。
『村一同《むらいちどう》へ言《こと》づけを頼《たの》まう。此《こ》の柱《はしら》を一本《いつぽん》頂《いたゞ》く……此《こ》の鳥居《とりゐ》のな。……後《あと》で幾《いく》らでも建立《こんりふ》するから、と然《さ》う言《い》つてな。』
『はい、……えゝ、東京《とうきやう》からござつた旦那方《だんながた》も其《そ》のつもりで相談《さうだん》打《ぶ》たしつた。奥様《おくさま》の居《ゐ》さつしやる処《ところ》の知《し》れるまでは、何《なん》でもお前様《めえさま》する事《こと》に逆《さか》らはねえやうにと言《い》ふだで、随分《ずゐぶん》好《す》き次第《しだい》にさつしやるが可《よ》うがんす。だが、もの、鳥居《とりゐ》の木柱《きばしら》な何《ど》うするだね。』
『此《これ》を刻《きざ》んで像《ざう》を造《つく》る、婦《をんな》のな、それは美《うつく》しい、先《ま》づ弁天様《べんてんさま》と言《い》つたもんだ、お前《まへ》にも見《み》せて遣《や》らう、吃驚《びつくり》するなよ。』
と其《そ》の呆《あき》れ顔《がほ》を掌《てのひら》でべたりと撫《な》でる。と此処《こゝ》へ一人《ひとり》で遣《や》つて来《く》るほど性根《しやうね》の据《すは》つた奴《やつ》、突然《いきなり》早腰《はやごし》も抜《ぬ》かさなんだが、目《め》を蔽《おほ》ふて、面《おもて》を背《そむ》けて、
『いとしぼげな、御道理《ごもつとも》でござります。』
とのそ/\帰《かへ》る……矢張《やつぱ》りお浦《うら》を攫《さら》はれた為《ため》に、気《き》が違《ちが》つたと思《おも》ふらしい。いや、是《これ》だから人間《にんげん》の来《く》るのは煩《うるさ》い!
「……しかし、其《そ》の後《のち》とも三度《さんど》の食事《しよくじ》、火《ひ》なり、水《みづ》なり、祠《ほこら》へ
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