《かたわき》に引込《ひつこ》んだ、森《もり》の中《なか》の、とある祠《ほこら》へ、送込《おくりこ》んだ……と言《い》ふよりは、づか/\踏込《ふみこ》んだ。後《あと》に踵《つ》いて来《き》て、渠等《かれら》は狐格子《きつねがうし》の外《そと》で留《と》まつたのである。
 提灯《ちやうちん》を一個《ひとつ》引奪《ふんだく》つて、三段《さんだん》ばかりある階《きざはし》の正面《しやうめん》へ突立《つゝた》つて、一揆《いつき》を制《せい》するが如《ごと》く、大手《おほて》を拡《ひろ》げて、
『さあ、皆《みんな》帰《かへ》れ。而《そ》して誰《たれ》か宿屋《やどや》へ行《い》つて、私《わたし》の大鞄《おほかばん》を脊負《しよ》つて来《き》て貰《もら》はう。――中《なか》にすべて仕事《しごと》に必要《ひつえう》な道具《だうぐ》がある。……私《わたし》は最《も》う、あの座敷《ざしき》へ入《はい》つて、脱《ぬ》いである衣服《きもの》、解《と》いてある紅《あか》い扱帯《しごき》を見《み》るに忍《しの》びん。……彼《かれ》が魔物《まもの》の手《て》に懸《かゝ》つて、身悶《みもだ》へしながら、帯《おび》からはじめて解《と》き去《さ》らるゝのを目《め》の前《まへ》に見《み》るやうだから。』
 親類《しんるゐ》の一人《いちにん》、インバネスを着《き》た男《をとこ》が真前《まつさき》に立《た》つて、皆《みな》ぞろ/\と帰《かへ》つた。……其《そ》の影《かげ》が潜《くゞ》つて出《で》る、祠《ほこら》の前《まへ》の、倒《たふ》れかゝつた木《き》の鳥居《とりゐ》に張《は》つた、何時《いつ》の時《とき》のか、注連縄《しめなは》の残《のこ》つたのが、二《ふた》ツ三《み》ツのたくつて、づらりと懸《かゝ》つた蛇《へび》に見《み》えた……

         二十九

 はて、面白《おもしろ》い。あれが天井《てんじやう》を伝《つた》ふ朽縄《くちなは》なら、其《そ》の下《した》に、しよんぼりと立《た》つた柱《はしら》は、直《す》ぐにお浦《うら》の姿《すがた》に成《な》る……取《と》つて像《ざう》を刻《きざ》む材料《ざいりやう》に遣《つか》うと為《し》やう。鋸《のこぎり》で挽《ひ》いて、女《をんな》の立像《りつざう》だけ抜《ぬ》いて取《と》る、と鳥居《とりゐ》は、片仮名《かたかな》のヰの字《じ》に成《な》つて、祠《
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