んき》な事《こと》を。落着《おちつ》いて相談《さうだん》と? ……此《こ》の上《うへ》何《なん》の相談《さうだん》を為《す》るんです。お浦《うら》を救《すく》ふのには一刻《いつこく》を争《あらそ》ふ、寸秒《すんべう》を惜《をし》む。早速《さつそく》さあ、人《ひと》の居《ゐ》ない小家《こや》、辻堂《つじだう》、祠《ほこら》、何《なん》でも構《かま》はん、其処《そこ》へ行《ゆ》かう。行《い》つて直《す》ぐに仕事《しごと》にかゝる。が、誰《たれ》も来《き》ては不可《いけな》い、屹《きつ》と来《き》ては不可《いけな》い、いづれ、やがて其《そ》の仕事《しごと》が出来《でき》ると、お浦《うら》と一所《いつしよ》に、諸共《もろとも》にお目《め》に懸《かゝ》つて更《あらた》めて御挨拶《ごあいさつ》をする。
 しかし、恁《か》う言《い》ふのを信《しん》じないで、私《わたし》に任《ま》かせることを不安心《ふあんしん》と思《おも》ふなら、提灯《ちやうちん》の上《うへ》に松明《たいまつ》の数《かず》を殖《ふや》して、鉄砲《てつぱう》持参《じさん》で、隊《たい》を造《つく》つて、喇叭《らつぱ》を吹《ふ》いてお捜《さが》しなさい、其《それ》は御勝手《ごかつて》です。』
と嘲《あざ》けるやうに又《また》アハアハ笑《わら》ふ。いや、気味《きみ》の悪《わる》い……
『あれ、天狗様《てんぐさま》が憑移《のりうつ》らしやつた。』
『魔道《まだう》に墜《お》ちさしたものだんべい。』
と密《ひそめ》いて言《い》ふのが聞《きこ》えた。
 が、最《も》う、そんな事《こと》に頓着《とんぢやく》しない。人間《にんげん》などには目《め》も懸《か》けないで、暗《くら》い中《なか》を矢鱈《やたら》に、其処等《そこいら》の樹《き》を眺《なが》めた。刻《きざ》むに佳《い》い枝《えだ》や、幹《みき》や、と目《め》を光《ひか》らす……これも眼前《がんぜん》、魔《ま》に心《こゝろ》を通《かよ》はす挙動《きよどう》の如《ごと》くに見《み》えたであらう。
 けれども言出《いひだ》した事《こと》は、其《そ》の勢《いきほひ》だけに誰一人《たれいちにん》深切《しんせつ》づくにも敢《あへ》て留《と》めやうとするものは無《な》く、……其《そ》の同勢《どうぜい》で、ぞろ/\と温泉宿《をんせんやど》へ帰《かへ》る途中《とちゆう》、畷《なはて》を片傍
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