すると、白痴《ばか》は惜《を》しさうに押《おさ》へて放《はな》さず、手《て》を上《あ》げて。婦人《をんな》の胸《むね》を圧《おさ》へやうとした。
邪慳《じやけん》に払《はら》ひ退《の》けて、屹《きツ》と睨《にら》むで見《み》せると、其《その》まゝがつくりと頭《かうべ》を垂《た》れた、総《すべ》ての光景《くわうけい》は行燈《あんどう》の火《ひ》も幽《かす》かに幻《まぼろし》のやうに見《み》えたが、炉《ろ》にくべた柴《しば》がひら/\と炎先《ほさき》を立《た》てたので、婦人《をんな》は衝《つ》と走《はし》つて入《はい》る。空《そら》の月《つき》のうらを行《ゆ》くと思《おも》ふあたり遥《はるか》に馬子唄《まごうた》が聞《きこ》えたて。)」[#「)」」はママ]
第二十
「さて、其《それ》から御飯《ごはん》の時《とき》ぢや、膳《ぜん》には山家《やまが》の香《かう》の物《もの》、生姜《はじかみ》の漬《つ》けたのと、わかめを茹《う》でたの、塩漬《しほづけ》の名《な》も知《し》らぬ蕈《きのこ》の味噌汁《みそじる》、いやなか/\人参《にんじん》と干瓢《かんぺう》どころではござらぬ
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