ある。其中《そのなか》を潜《くゞ》つたが仰《あふ》ぐと梢《こずえ》に出《で》て白《しろ》い、月《つき》の形《かたち》は此処《ここ》でも別《べつ》にかはりは無《な》かつた、浮世《うきよ》は何処《どこ》にあるか十三夜《じふさんや》で。
先《さき》へ立《た》つた婦人《をんな》の姿《すがた》が目《め》さきを放《はな》れたから、松《まつ》の幹《みき》に掴《つか》まつて覗《のぞ》くと、つい下《した》に居《ゐ》た。
仰向《あふむ》いて、
(急《きふ》に低《ひく》くなりますから気《き》をつけて。こりや貴僧《あなた》には足駄《あしだ》では無理《むり》でございましたか不知《しら》、宜《よろ》しくば草履《ざうり》とお取交《とりか》へ申《まを》しませう。)
立後《たちおく》れたのを歩行悩《あるきなや》んだと察《さつ》した様子《やうす》、何《なに》が扨《さて》転《ころ》げ落《お》ちても早《はや》く行《い》つて蛭《ひる》の垢《あか》を落《おと》したさ。
(何《なに》、いけませんければ跣足《はだし》になります分《ぶん》のこと、何卒《どうぞ》お構《かま》ひなく、嬢様《ぢやうさま》に御心配《ごしんぱい》をかけては
前へ
次へ
全147ページ中65ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング