ちかづ》いたからだと弗《ふ》と気《き》が着《つ》いた。
 何《ど》の道《みち》死《し》ぬるものなら一|足《あし》でも前《まへ》へ進《すゝ》んで、世間《せけん》の者《もの》が夢《ゆめ》にも知《し》らぬ血《ち》と泥《どろ》の大沼《おほぬま》の片端《かたはし》でも見《み》て置《お》かうと、然《さ》う覚悟《かくご》が極《きはま》つては気味《きみ》の悪《わる》いも何《なに》もあつたものぢやない、体中《からだぢう》珠数生《じゆずなり》になつたのを手当次第《てあたりしだい》に掻《か》い除《の》け毟《むし》り棄《す》て、抜《ぬ》き取《と》りなどして、手《て》を挙《あ》げ足《あし》を踏《ふ》んで、宛《まる》で躍《をど》り狂《くる》ふ形《かたち》で歩行《あるき》出《だ》した。
 はじめの内《うち》は一|廻《まはり》も太《ふと》つたやうに思《おも》はれて痒《かゆ》さが耐《たま》らなかつたが、しまひにはげつそり痩《や》せたと、感《かん》じられてづきづき痛《いた》んでならぬ、其上《そのうへ》を用捨《ようしや》なく歩行《ある》く内《うち》にも入交《いりまじ》りに襲《おそ》ひをつた。
 既《すで》に目《め》も眩《く
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