違《さうゐ》ないと、いや、全《まツた》くの事《こと》で。」
第九
「凡《およ》そ人間《にんげん》が滅《ほろ》びるのは、地球《ちきう》の薄皮《うすかは》が破《やぶ》れて空《そら》から火《ひ》が降《ふ》るのでもなければ、大海《だいかい》が押被《おツかぶ》さるのでもない飛騨国《ひだのくに》の樹林《きはやし》が蛭《ひる》になるのが最初《さいしよ》で、しまいには皆《みんな》血《ち》と泥《どろ》の中《なか》に筋《すぢ》の黒《くろ》い虫《むし》が泳《およ》ぐ、其《それ》が代《だい》がはりの世界《せかい》であらうと、ぼんやり。
なるほど此《こ》の森《もり》も入口《いりくち》では何《なん》の事《こと》もなかつたのに、中《なか》へ来《く》ると此通《このとほ》り、もつと奥深《おくふか》く進《すゝ》んだら早《は》や不残《のこらず》立樹《たちき》の根《ね》の方《はう》から朽《く》ちて山蛭《やまびる》になつて居《ゐ》やう、助《たす》かるまい、此処《こゝ》で取殺《とりころ》される因縁《いんねん》らしい、取留《とりと》めのない考《かんがへ》が浮《うか》んだのも人《ひと》が知死期《ちしご》に近《
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