だけ脈《みやく》を打《う》つて血《ち》を吸《す》ふやうな。思《おも》ひなしか一ツ一ツ伸縮《のびちゞみ》をするやうなのを見《み》るから気《き》が遠《とほ》くなって、其時《そのとき》不思議《ふしぎ》な考《かんがへ》が起《お》きた。
 此《こ》の恐《おそろし》い山蛭《やまびる》は神代《かみよ》の古《いにしへ》から此処《こゝ》に屯《たむろ》をして居《ゐ》て人《ひと》の来《く》るのを待《ま》ちつけて、永《なが》い久《ひさ》しい間《あひだ》に何《ど》の位《くらゐ》何斛《なんごく》かの血《ち》を吸《す》ふと、其処《そこ》でこの虫《むし》の望《のぞみ》が叶《かな》ふ其《そ》の時《とき》はありつたけの蛭《ひる》が不残《のこらず》吸《す》つたゞけの人間《にんげん》の血《ち》を吐出《はきだ》すと、其《それ》がために土《つち》がとけて山《やま》一ツ一|面《めん》に血《ち》と泥《どろ》との大沼《おほぬま》にかはるであらう、其《それ》と同時《どうじ》に此処《こゝ》に日《ひ》の光《ひかり》を遮《さへぎ》つて昼《ひる》もなほ暗《くら》い大木《たいぼく》が切々《きれ/″\》に一ツ一ツ蛭《ひる》になつて了《しま》うのに相
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