ぎ取《と》つた。
 何《なに》にしても恐《おそろ》しい今《いま》の枝《えだ》には蛭《ひる》が生《な》つて居《ゐ》るのであらうと余《あまり》の事《こと》に思《おも》つて振返《ふりかへ》ると、見返《みかへ》つた樹《き》の何《なん》の枝《えだ》か知《し》らず矢張《やツぱり》幾《いく》ツといふこともない蛭《ひる》の皮《かは》ぢや。
 これはと思《おも》ふ、右《みぎ》も、左《ひだり》も前《まへ》の枝《えだ》も、何《なん》の事《こと》はないまるで充満《いツぱい》。
 私《わし》は思《おも》はず恐怖《きようふ》の声《こゑ》を立《た》てゝ叫《さけ》んだすると何《なん》と? 此時《このとき》は目《め》に見《み》えて、上《うへ》からぼたり/\と真黒《まツくろ》な瘠《や》せた筋《すぢ》の入《はい》つた雨《あめ》が体《からだ》へ降《ふり》かゝつて来《き》たではないか。
 草鞋《わらじ》を穿《は》いた足《あし》の甲《かふ》へも落《おち》た上《うへ》へ又《また》累《かさな》り、並《なら》んだ傍《わき》へ又《また》附着《くツつ》いて爪先《つまさき》も分《わか》らなくなつた、然《さ》うして活《い》きてると思《おも》ふ
前へ 次へ
全147ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング