ら》んで倒《たふ》れさうになると、禍《わざわひ》は此辺《このへん》が絶頂《ぜつちやう》であつたと見《み》えて、隧道《トンネル》を抜《ぬ》けたやうに遥《はるか》に一|輪《りん》のかすれた月《つき》を拝《おが》んだのは蛭《ひる》の林《はやし》の出口《でくち》なので。
 いや蒼空《あをそら》の下《した》へ出《で》た時《とき》には、何《なん》のことも忘《わす》れて、砕《くだ》けろ、微塵《みぢん》になれと横《よこ》なぐりに体《からだ》を山路《やまぢ》へ打倒《うちたふ》した。それでからもう砂利《じやり》でも針《はり》でもあれと地《つち》へこすりつけて、十《とう》余《あま》りも蛭《ひる》の死骸《しがい》を引《ひツ》くりかへした上《うへ》から、五六|間《けん》向《むか》ふへ飛《と》んで身顫《みぶるひ》をして突立《つツた》つた。
 人《ひと》を馬鹿《ばか》にして居《ゐ》るではありませんか。あたりの山《やま》では処々《ところ/″\》茅蜩殿《ひぐらしどの》、血《ち》と泥《どろ》の大沼《おほぬま》にならうといふ森《もり》を控《ひか》へて鳴《な》いて居《ゐ》る、日《ひ》は斜《なゝめ》、谷底《たにそこ》はもう暗《
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