丈《ぢやう》余《よ》、段々《だん/″\》と草《くさ》の動《うご》くのが広《ひろ》がつて、傍《かたへ》の谷《たに》へ一|文字《もんじ》に颯《さツ》と靡《なび》いた、果《はて》は峯《みね》も山《やま》も一|斉《せい》に揺《ゆる》いだ、悚毛《おぞけ》を震《ふる》つて立窘《たちすく》むと涼《すゞ》しさが身《み》に染《し》みて気《き》が着《つ》くと山颪《やまおろし》よ。
此《こ》の折《をり》から聞《きこ》えはじめたのは哄《どツ》といふ山彦《やまひこ》に伝《つた》はる響《ひゞき》、丁度《ちやうど》山《やま》の奥《おく》に風《かぜ》が渦巻《うづま》いて其処《そこ》から吹起《ふきおこ》る穴《あな》があいたやうに感《かん》じられる。
何《なに》しろ山霊《さんれい》感応《かんおう》あつたか、蛇《へび》は見《み》えなくなり暑《あつ》さも凌《しの》ぎよくなつたので気《き》も勇《いさ》み足《あし》も捗取《はかど》つたが程《ほど》なく急《きふ》に風《かぜ》が冷《つめ》たくなつた理由《りいう》を会得《ゑとく》することが出来《でき》た。
といふのは目《め》の前《まへ》に大森林《だいしんりん》があらはれたので。
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