と思つて四十五銭と云ふ紅入《べにいり》のを一|掛《かけ》買つたが、外にも何か買はせようとする熱誠《ねつせい》と云ふものが主人と小僧さんの顔に満ちて居るので、気が弱くなつて鼠地に蝶燕《てふつばめ》の模様のある襟を私のに買つた。腹立だしい気がした。平出さんへ寄つた。煙草《たばこ》が欲《ほ》しいと云つたらエンチヤンテレスはないと笑はれた。私のために送別会をしてくれないやうに、着て出る着物がないから今からお頼みして置くのだと私は云つた。昨日《きのふ》も平野君がその話をして綺麗な自動車にあなたを載せて街を皆で歩かうかなどゝ云つて居たと平出さんは云つた。玉川堂《ぎよくせんだう》で短冊を買つて帰つた。子供等は持つて帰つた林檎をおいしさうに食べるのであつたが、私は一|片《き》れも食べる気がしなかつた。夕飯《ゆふはん》の時に阪本さんが来た。留守の間に浅草の川上さんのお使《つかひ》が見えたさうである。
八日
昨夜《きのふ》は雅子さんの夢を見た。雅子さんに手紙を書かうかなどゝ朝の床《とこ》の中では考へた。川上さんの女の書生さんが見え、吉小神《きこがみ》さんが来た。昨日の続きの仕事をして居たが昼頃から少し
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