けで撮つて貰つた。私は着物を着更《きか》へた序《つい》でであるし、頭も悪いのであるから買物にでも行つて来ようと思つた。高野豆腐の煮附と味附海苔で昼の食事をして私は家を出た。××新聞社に用があつたから数寄屋橋で電車を降りた。××さんが居なかつたから××新聞社へ行つたのは無駄だつた。有楽町の河岸《かし》を歩きながら、尼さんのやうなものをばかり食べて居るからこればかしの道でも苦しいのだと情けなく思つた。三越の二階で羽織を一枚染めるのを頼んだ。二三日前の夜《よ》ふと考へて面白がつた酔興《すゐきよう》のことも、いよ/\紫紺《しこん》にしてくれと云ふ時にはもう恥《はづか》しくなつて廃《や》めようかと迄思つたのであつた。
『少しおはででは御座いませんでせうか。』
と云つた番頭さんに私は自分のぢやないと云つた。紙入《かみいれ》を一つと布団《ふとん》の裏地を一|疋《ぴき》と晒《さらし》を二反買つて届けて貰ふ事にした。神保町の通りで近頃出来た襟店《えりみせ》が安物ばかり並べてあるのが何だか可哀相な気がして立つて見て居ると、小僧さんが何とかかとか云つてとうとう店の中へ私を入れてしまつた。元園町の女中に遣らう
前へ 次へ
全12ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング