比べて数倍の学問も智慧《ちえ》もありましょう。けれども完全なる「人」としての教養はどうでしょうか。私は良妻賢母主義に対して男子にも良夫賢父主義とでもいう教育を授けてはどうかと揶揄《やゆ》せられた或人の議論を一理あると考えます位に、多数の男子は今|以《もっ》て妻に対する心掛が野蛮であると存じます。

 それならば少数の男子――社会において人としての教養を最《もっとも》多く積んでいられるらしい男子の方はどうかと申すと、その例には女子教育家であって度度《たびたび》女子問題に御説を出《いだ》される三輪田元道《みわたもとみち》先生などを引くのが都合が宜しいと存じます。先生は今の教育家として御立派な方《かた》でしょうが、近年夫人が御亡《おなく》なりになって間もなく再婚を致された際の先生の御話を雑誌で拝見した時に私は厭《いや》な気持が致しました。先生の再婚の理由として「小供らの教育を托《たく》する人を得て冥途《めいど》の妻の心を喜ばすために後の妻を貰《もら》ったのである」という意味の事を述べられていましたが、教育家という諸先生はこうまで自分の心をも社会をも欺いて嘘を吐《つ》かれる者か。もしまたこれが
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