には少し学問でもすると半可通《はんかつう》を振廻したがる悪習が潜んでおります。そういう女性の悪習を一掃することも私どもが智力を養う理由の一つであることを自覚して掛りたいと思います。仏蘭西《フランス》未来派のサンポワン女史が三、四年来、婦人自ら内にある女性を絶滅せねばならぬと叫んでいるのも、女性の一切を不純不良な物として誇張した嫌《きらい》はありますが、婦人がとかく見て見ぬ振《ふり》をしていた自分の最大欠点を暴露してそれを絶滅しようとする誠意と勇気とは私どもの学ぶべき所です。
高度の智力は婦人をして自重と謙譲と貞淑との必要を明かに理解させますから、家庭及び社会がその程度にまで婦人みずから教育しようとする気風を奨励擁護して頂きたいと思います。その程度にまで達しない粗末至極な教育を施して置きながら、学問が一概に婦人を生意気にし徳操的に堕落させる物のように臆断する世人の多いのは心外です。低級な学問をした者が軽挙妄動し諸種の誘惑に身を誤りやすいのは男も同じ事でしょう。婦人の智力の向上は婦人自身の発奮が何より太切ですけれど、周囲もまた男女に由って教育の待遇を分つ悪習を自ら反省して頂かねばなりません。(一九一五年十二月)
[#下げて、地より1字あきで](『大阪毎日新聞』一九一六年一月一日)
底本:「与謝野晶子評論集」岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年8月16日初版発行
1994(平成6年)年6月6日10刷発行
底本の親本:「人及び女として」天弦堂書房
1916(大正5)年4月初版発行
入力:Nana ohbe
校正:門田裕志
2002年1月10日公開
2003年5月18日修正
青空文庫ファイル:
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