実です。平塚さんのように、「大多数の婦人は生涯結婚し分娩し得る時は来ないものと観念」するにも当りません。反対に、大多数の労働婦人が安全に結婚し分娩し得る幸福な時代は、富の分配を公平にする制度さえ人間が作れば容易に実現され得るものであることが予想されます。
 現実の一面が固定的に膠着《こうちゃく》した状態にあるからといって、私たちの主張を「所詮実行不可能の理想」といわれるのは平塚さんにも似合わない臆断です。理想は現実を改造することを常に予想しています。そうして、現実の大部分は常に多少とも変動しつつあるものです。それに正当な方向の指導を与えて統一した推移を計るものが理想です。固定的に見える現実の一面ばかりを注視するなら、平塚さんも唱えられ、私たちも要求している恋愛結婚にしても、「今日の社会においては所詮実行不可能な理想」といわねばならないでしょう。この理由からして、平塚さんがその恋愛結婚の理想の主張を抛棄《ほうき》されたとも聞きません。むしろ一面に媒妁結婚が頑強な勢力を持っていればこそ、他面には恋愛結婚に対する憧憬が鬱然《うつぜん》として盛んな機運を作ろうとしつつあり、従って平塚さんのよう
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