齢にある婦人を、健康な子供を産み得る婦人を、生涯もしくは長期間、独身者として労働市場に置こうとすることは、婦人自身の不幸はいうまでもありませんが、国家にとっても種種なる意味で大損失でなければなりません」といわれました。私は平塚さんが現実のみを――殊にその一面のみを――固定的に眺めておられるのを歯痒《はがゆ》く思います。現在の労働制度が我々人間の力で改造されないものと決っているならともかく、男子も女子も心的に体的に何らかの労働に従事することを以て物質生活を持続することが普通の状態となるに到れば、今に幾倍する摯実《しじつ》と熱心と勇気とを以て、一般の労働制度を我我に最も適応したものに鋳直《いなお》さずには置きません。そうなれば、勤勉な労働婦人は、その妊娠、分娩、育児に要する或時期だけ労働を休んでも、平生と同じ物質的の報酬を得ることも出来、また平生の報酬の剰余を貯蓄して置くことに由って、その期間だけ労働を休んでも、夫婦相互の扶養と子供の哺育及び教育に当てるだけの物質に不足しないでいることが出来るに違いありません。こういう労働制度の改造も男女相互の経済的独立心が旺盛にさえなれば実現され得べき事
前へ 次へ
全17ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング