笑し、「独立という美くしそうな言葉に魅せられ」とか「独立などという空想に迷わされ」とかいっておられるようですが、これは思いがけない奇論だと思います。山田さんほどの人がまさか[#「まさか」に傍点]「独立」と「孤立」との意味を混淆《こんこう》されることもないでしょう。人類共同の生活と個人独立の生活とが矛盾すべきものでないことは、「人間はそれ自身を目的として存在する者」として人格の絶対尊貴を教えたカントの哲学に聴いても、「修身」を本として「治国平天下」に拡充し、「人を措いて天を思わば万物の情を失う」(『荀子《じゅんし》』)といい、「人を治むる所以《ゆえん》を知るは天下国家を治むる所以を知るなり」(『中庸』)と説いた支那の昔の哲人たちに聴いても明白な道理だと思います。
 近頃|有島武郎《ありしまたけお》さんは「世界の内在的価値は人に由って創造される。……どれほど素朴な自己であっても、自己がある以上は、世界はその人の手に由って新たに創造されているのだ。……自己のない所に世界はない。民衆の意識に共通して少しの出入もない世界は一つもない。世界を創造するものは単位であり、同時に綜和であるものは自己だ」
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