山田さんは「家事の煩忙」を女子の労働の不可能な一つの条件に数えられましたが、我国の家事は大部分無用なものですから、努力次第で最も早く除き得る小さい障碍《しょうがい》だと思います。
 人の能《よ》くいう女子の労働能率を男子より低いとする通俗論は、戦争以来、英国ミッドランド鉄道会社その他の男女工能率の比較表を見ても確かに誤謬《ごびゅう》を示しております。或所では女工の能率が男工に対して二十パアセント高く、或所では女子を代用したるため一週間の製造高について五百個の減少を予想していたのに、かえって五百個を増加する結果を示しました。欧米において高級な行政事務にも続々と女子を用いていますが、適材を適所に置いたものは、優に男子と匹敵する能率を挙げているといいます。
 世間にはまた妻や母が屋外の職業に就くと、家庭の情味を減じるという反対説があります。我国の現在の程度の職業婦人|殊《こと》に有夫有子の女教師たちにはそう[#「そう」に傍点]いう弊害が折々あるのを私も認めます。しかしそれは、一つは我国の女子教育が善くないからです。愛と理性との高い教育を疎《おろそ》かにしている以上、どの家庭婦人も高雅な
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