です。私は四、五歳の時から貧しい家庭の苦痛を知り初め、十一、二歳より家計に関係して、使用人の多い家業の労働に服しながら、二十二、三歳までの間に、あらゆる辛苦と焦慮とを経験して、幾度か破綻《はたん》に瀕《ひん》した一家を、老年の父母に代り、外に学んでいる兄や妹にも知らせずに、とにもかくにも私一人の微力で、一家を維持し整理して来たのです。他人が中年になって経験する経済生活の試錬を私は娘時代において嘗《な》め尽しました。或人においては、一生涯かかって経験する苦労を、私は誇張でなく、全く娘時代の十年間に凌《しの》いで来たと思っています。次で結婚生活に入って後の私の経済生活というものも、引き続いて多難なものであるのですが、これを娘時代の苦労に比べると非常に安易な心持を覚えます。こうして、私は私自身の薄弱な力の許す限り周囲に打克《うちか》って、細々《ほそぼそ》ながら自己の経済的独立を建てて来ました。これは毫《ごう》も自負のつもりでなく、私がこういう実証の上に立っているということの説明にいうのです。
しかし個人の経験を以て一般を推論することが往々誤謬に陥るとすれば、私は一条忠衛さんが近く富山県の漁
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