餌かはむ
粧室《けはひや》の鏡に浪《なみ》のうつるなり海の風めで窓あけし家
かもめゐるわたつみ見ればいだかれて飛ぶ日をおもふさいはひ人よ
ゆく春や葛西《かさい》の男|鋏刀《はさみ》して躑躅《つつじ》を切りぬ居丈《ゐだけ》ばかりに
おん舟に居こぞる人の袴《はかま》より赤き紅葉《もみぢ》の島さして来ぬ
燭《しよく》さして赤良小船《あからをぶね》の九つに散り葉のもみぢ積みこそ参れ
大赤城《おほあかぎ》北|上《かみ》つ毛《け》の中空《なかぞら》に聳《そび》やぐ肩を秋のかぜ吹く
春雨の山しづけさよ重なりて小牛まろぶも寝てあれと思ふ
秋の人|銀杏《いてふ》ちるやと岡に来て逢ひにける子と別れて帰る
うつら病む春くれがたやわが母は薬に琴を弾《ひ》けよと云へど
やはらかにぬる夜ねぬ夜を雨しらず鶯まぜてそぼふる三日
夕顔やこよと祈りしみくるまをたそがれに見る夢ごこちかな
薬草の芽をふく伯父の草庵《さうあん》に琴ひく人を訪《と》へと思ふ日
ふたたびは寝釈迦《ねじやか》に似たるみかたちを釘する箱に見む日さへ無き(父君の日に)
牡丹うゑ君まつ家と金字《きんじ》して門《かど》に書きたる
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