すとて褄《つま》とる人を

ほととぎす水ゆく欄にわれすゑてものの涼しき色めづる君

うらさびしわが家《や》のあとに家《や》つくると青埴《あをはに》盛るを見たるここちに

磯草にこほろぎ啼くや夕月の干潟《ひがた》あゆみぬ人五六人

紫野なでしこ折ると傘たたみ三騎《さんき》の人に顔見られけり

夏まつりよき帯むすび舞姫に似しやを思ふ日のうれしさよ

君を見て昨日《きのふ》に似たる恋しさをおぼえさせずば神よ詛《のろ》はむ

このつかのま悲みの日に伝ふべき甘さと慄《ふる》へ美くしと笑《ゑ》み

髪ながきおんかげ渓《たに》を深う落ち流に浮きぬしろがね色に

高野川河原のかなた松が枝《え》にかはせみ下《お》りぬ知る人の家

ふるき城は立てりしづかに山上のわか葉そよぎの薫《くん》ずる雨に

うすいろを着よと申すや物焚《ものた》きしかをるころものうれしき夕

長月の御苑《ぎよゑん》の朝や露わぶと羅蓋《らがい》してまし白菊の花

うたたねの御枕あまた候《さふら》ふなりかひなも伽羅《きやら》の箱も鼓も

相人《さうにん》よ愛欲せちに面痩《おもや》せて美くしき子に善きことを言へ

牛つれて松明《たいまつ》し
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