をとめ》

五月雨《さつきあめ》春が堕《お》ちたる幽暗の世界のさまに降りつづきけり

春の夜や聖母聖なり人の子の凡慮知らじと盗みに来しや

野社《のやしろ》や榛《はん》の木折れて晩秋の来しと銀杏《いてふ》の葉に吹かれ居る

君にをしふなわすれ草の種まきに来よと云ひなばおどろきて来む

京の衆《しゆ》に初音まゐろと家ごとにうぐひす飼ひぬ愛宕《をたぎ》の郡《こほり》

知恩院《ちおゐん》の鐘が覚《さ》まさぬ人さめぬ扇もとむるわが衣《きぬ》ずれに

あやまちは君を牡丹とのみいはで花に似し子をかぞへけるかな

君は死にき旅にやりきとまろ寝しぬうしろの人よものないひそね

初夏のわか葉のかげによき香する煙草《たばこ》をのむをよろこぶ人と

春そよと風ふく朝はおん墓に桜ちらむとなつかしき父

おもはぬを罪と知る日の君おもひ涙ながれてはてなき日なり

わが知らぬわれ恋ふる子のおもひ寝の来しとゆかしむ琴ききし夢

鳴滝《なるたき》や庭なめらかに椿ちる伯母の御寺のうぐひすのこゑ

六月《みなつき》のおなじ夕に簾《すだれ》しぬ娘かしづく絹屋と木屋と

大堰川《おほゐがは》山は雄松《をまつ》の紺青《こんじや
前へ 次へ
全22ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング