じん》に霰《あられ》ふるなりきさらぎの春

二十六きのふを明日とよびかへむ願ひはあれど今日も琴ひく

髪|香《かう》たき錦に爪をつつませておふしたてられ君にとつぎぬ

わが宿の春はあけぼの紫の糸のやうなるをちかたの川

ゆるしたまへ二人を恋ふと君泣くや聖母にあらぬおのれの前に

春いにて夏きにけりと手ふるれば玉はしるなり二十五の絃《いと》

すぐれて恋ひすぐれて君をうとまむともとよう人の云ひしならねど

ふるさとの潮の遠音《とほね》のわが胸にひびくをおぼゆ初夏の雲

天《あめ》とぶにやぶれて何の羽かある夢みであれな病める隼《はやぶさ》

大夏《おほなつ》の近江《あふみ》の国や三井寺《みゐでら》を湖《うみ》へはこぶと八月雲す

われを見れば焔《ほのほ》の少女《をとめ》君みれば君も火なりと涙ながしぬ

梅雨晴《つゆばれ》の日はわか枝《え》こえきらきらとおん髪をこそ青う照りたれ

鶯の餌《ゑ》がひすがたやおもはれし妻は春さく花はやしける

ものいはぬつれなきかたのおん耳を啄木鳥《きつつき》食《は》めとのろふ秋の日

大木曾《おほぎそ》は霧や降るらむはゆま路を駄馬《だうま》ひく子とつれだち給へ
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