ひな》の鶯の啼《な》く

二もとの橄欖《かんらん》しげる琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]《らうかん》の亭の四方を船かよひけり

春の山|懸樋《かけひ》の水のとまりしを昨夜《よべ》の狐とにくみたまひぬ

遠つあふみ大河《たいが》ながるる国なかば菜の花さきぬ富士をあなたに

軒ちかき御座《みざ》よ火《ほ》の気《け》と月光のなかにいざよふ夜の黒髪

松かげの藤ちる雨に山越えて夏花使《なつばなづかひ》野を馳《は》すらむか

廻廊を西へならびぬ騎者たちの三十人は赤丹《あかに》の頬《ほ》して

きぬぎぬや雪の傘する舞ごろもうしろで見よと橋こえてきぬ

高き家《や》に君とのぼれば春の国河|遠白《とほじろ》し朝の鐘なる

長雨や出水《でみづ》の国の人なかば集《つど》へる山に法華経《ほけきやう》よみぬ

夕《ゆふべ》にはちるべき花と見て過ぎぬ親もたぬ子の薄道心《うすだうしん》に

淡色《うすいろ》の牡丹今日ちる時とせず厄日《やくび》と泣きぬ病《や》み僻《ひが》む人

保津川《ほづがは》の水に沿ふなる女松山《めまつやま》幹むらさきに東明《しののめ》するも

萌野《もえの》ゆき紫野ゆく行人《かう
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