となさは王城《わうじやう》のごとしと知りぬ流離《りうり》の国に

歌を見てうつぼ柱に秋雨のつたふやうなる涙の落ちぬ

日輪に礼拝《らいはい》したる獅子王の威とぞたたへむうらわかき君

みさぶらひ御髪《みぐし》に似るは乱菊《らんぎく》と申すと云ひぬ寝《ね》てのみあれば

かざしたる牡丹《ぼたん》火となり海燃えぬ思ひみだるる人の子の夢

われと燃え情火|環《たまき》に身を捲《ま》きぬ心はいづら行方《ゆくへ》知らずも

山々に赤丹《あかに》ぬるなる曙《あけぼの》の童《わらは》が撫でし頬《ほ》と染まりける

花草《はなぐさ》の満地《まんち》に白とむらさきの陣《ぢん》立ててこし秋の風かな

灯《ひ》に遠きうすいろぞめのあえかさの落花に似るを怨女《ゑんにょ》と云ふや

初夏《はつなつ》の玉の洞《ほら》出しほととぎす啼《な》きぬ湖上のあかつきびとに

朝に夜に白檀かをるわが息を吸ひたまふゆゑうつくしき君

木蓮《もくれん》の落花ひろひてみほとけの指とおもひぬ十二の智円《ちゑん》

罪したまへめしひと知ると今日を書き明日《あす》は知らずと日記《にき》する人を

春雨やわがおち髪を巣にあみてそだちし雛《
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