よき朝に君を見たりきよき宵におん手とりしと童泣《わらはなき》すも

まくら二尺さりて水ゆくあづま屋に螢こよなうもてはやす人

舞の手を師のほめたりと紺暖簾《こんのれん》入りて母見し日もわすれめや

あけがたの鶯ききし空耳の君がまた寝を難じて居たり

わが肩にいとやごとなき髪おちてやがて捲《ま》かれて消し春の夢

君に似しさなりかしこき二心《にしん》こそ月を生みけめ日をつくりけめ

この恋君《こひぎみ》うらみたまへどそひぶしの寝物語もさまよきほどに

野ゆく君花に聴かずや語部《かたりべ》も伝へずありし幾ものがたり

おもはれぬ人のすさびは夜の二時に黒髪すきぬ山ほととぎす

月の夜をさそへど出でずこほろぎを待つと云ふなるとなり人かな

春の月おとうとふたり笛ふいて上ゆく岡を母とながめぬ

きぬぎぬや春の村びとまださめぬ水をわたりし河下の橋

春の朝われ黒髪にたきものす鶯まゐれ目ざめし人に

炉にむかひ鼓あぶりてものいふを少女と誉めぬわれいつく母

君が妻はなでしこ※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して月の夜に鮎の籠あむ玉川の里

夕ぐれのさびしき池を
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