しき

画師の君わが歌よみし京洛の山は黄金の泥《でい》して描《か》けな

白《はく》牡丹さける車のかよひ路に砂金《しやごん》しかせて暮を待つべき

おん胸の石をすべりし逸矢《それや》ともつくつく日記《にき》を見る日もありぬ

扇ふたつ胡蝶のさまに夕闇の中をよりきぬ灯のあづま屋に

菜の花の御寺も桃のおん堂も仏うまるる人まうでかな

ひがし山やどのあるじにおどされぬひひなぬすみて来しやとばかり

やはらかき少女《をとめ》が胸の春草に飼はるるわかき駒とこそ思へ

君うれし恋ふと告げたる一瞬に老いてし人をよくみとりける

あらし山雨の戸出でて大きなる舟に人まつただひとりかな

この雨に暮れむとするやひもすがら牡丹のうへを横し斜《ななめ》し

秋かぜは鈴《れい》の音かな山裾の花野見る家の軒おとづれぬ

春の雨橋をわたらむ朝ならば君は金糸《きんし》の簑《みの》して行けな

秋の風きたる十方玲瓏《じふばうれいろう》に空と山野と人と水とに

わが哀慕雨とふる日に※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]《いとど》死ぬ蝉死ぬとしも暦を作れ

川ぞひの芒《すすき》と葦のうす月夜小桶はこびぬ鮎ひたすとて

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