れまゐろさくら花ちる春の夜の廊
紫に春日《かすが》の森は藤かかる杉大木のありあけ月夜
秋の水なかの島なるおん寺の時鐘うちぬ月のぼる時
病む君のまゐれと召しぬおん香や絵本ひろごる中の枕に
うらわかきおんそぎ髪の世をまどひ朝暮《てうぼ》の経に鶯なくも
初秋や朝顔さける廐《うまや》にはちさき馬あり驢《ろ》あり牛あり
清滝の水ゆく里は水晶の舟に棹して秋姫の来る
ゆく春の藤の花より雨ふりぬ石に死にたる紅羽《べには》の蝶に
秋雨は別れに倚《よ》りしそのかみの柱のごとくなつかしきかな
秋のかぜ今わかかりし画《ゑ》だくみの百日《ももか》かへらぬ京を吹くらむ(西の京なる岡直道の君の追悼に)
手のわかう仮名しりひける字を笑みぬ死なむと見しは誰《たれ》ならなくに
行水や柿の花ちる井のはたの盥《たらひ》にしろき児をほめられぬ
波の上を遠山はしる風のたび解けて長くもなびきける髪
ふるさとに金葉集をあづけ来ぬ神社《みや》に土座《どざ》する乞食《かたゐ》の媼《うば》に
大馬の黒の背鞍に乗りがほの甥《をひ》に訪《と》はれぬ野分《のわき》する家
君見ゆるその時わかぬ幻境の思出ひとつ今日も哀
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