れたる前髪みゆれ砂山船に
磯松の幹のあひだに大海のいさり船見ゆ下総《しもふさ》の浦
絽の蚊帳の波の色する透《す》きかげに松|千《ち》もとみる有明の月
月の夜の廊《らう》に船くる海の家すだれにかけぬ花藻のふさを
春くれては花にとぼしき家ながら恋しき人を見ぬ日しもなき
十余人縁にならびぬ春の月八阪の塔の廂《ひさし》離ると
水を出でて白蓮さきぬ曙のうすら赤地の世界の中に
わが家や芥《あくた》ながるる川下も美くしと見て在《あ》りける君よ
森かげにならぶ赤斑《あかふ》の石獅子の一つ一つに熱《あつ》き頬《ほ》よる日
われひとり見まく欲《ほ》りする貪欲を憎まず今日も君おはしけり
さくら貝遠つ島辺の花ひとつ得つと夕《ゆふべ》の磯ゆく思《おもひ》
みだれ髪君を失《な》くすと美くしき火焔《ほむら》燃えたる夢の朝かな
かきつばた扇つかへる手のしろき人に夕の歌かかせまし
朝戸出《あさとで》や離宮まねびし家主《いへぬし》と隣り住むなる春がすみかな
富士の山浜名の海の葦原《あしはら》の夜明の水はむらさきにして
水こえて薄月させる花畑にあやめ剪《き》るなり戸出でし人は
責めますな心に
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