来世とやすててこし日の母の泣く夢を見る子の何をののかむ

みづからは隙なく君を恋ふる間に老いてし髪と誇りも為《す》べき

すそ梳《す》けば髪あざやかに琴緒《ことを》しぬ絃《いと》の手知らば弾《ひ》きに来よ風

人|怨《ゑ》じて我ぞよりたる小柱に鬢香《びんが》のこらむ其下《そのもと》に寝よ

冬はきぬ室《むろ》に夢見む春夏秋ひつじとまじる草の寝ごころ

いとかすけく曳くは誰《た》が子の羅《ら》の裾ぞ杜鵑《とけん》まつなるうすくらがりに

七つより袈裟《けさ》かけならひ弓矢もて遊ばぬ人も軍《いくさ》に死にぬ(その僧の親達に)

籠《こ》はなてば螢とまりぬ香木《かうぼく》のはしらにひとつ御髪《みぐし》にひとつ

六月の氷まゐりぬ深宮《しんきう》の白の珊瑚《さんご》のみまくらもとに

世に君の御手《みて》えて今は死なむとぞ昼夜感じ三とせの余《よ》へぬ

春のかぜ加茂川こえてうたたねの簾《すだれ》のなかに山|吹《ふ》き入れよ

五六人をなごばかりのはらからの馬車してかへる山ざくら花

森ゆけば靄《もや》のしづくに花さきしすみれ摘むとぞ名をのる子かな

紅蟹《べにがに》をさはな怖《お》ぢそねかく
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