ところに入るとごとくに船かへりきぬ
玉ひかるべにさし指の美々《びび》しさにやらで別れし牧の花草
夕月夜さくらがなかのそよ風に天女さびたる御手《みて》とり走《わし》る
いづら行かむ君の案内《あない》に菜の花の二すぢ路の長しみじかし
舞ごろも五たり紅《あけ》の草履《ざうり》して河原に出でぬ千鳥のなかに
百とせをかはらぬことは必らずと誓はぬ人を今日も見るかな
秋の路|立楽《たちがく》すなる伶人《れいじん》の百歩にあると朝かぜを聴く
牡丹いひぬ近うはべらじ身じろぎにうごかばかしこ王冠の珠
わがこころ君を恋ふると高ゆくや親もちひさし道もちひさし
春の雨|衆生《しゆじやう》すくひの大力者《だいりきしや》ぬれていましぬさくらの中に
秋霧や林のおくのひとつ家《や》に啄木鳥《きつつき》飼ふと人をしへけり
よう聞きぬ夢なる人の夢がたりするにも似たる御言葉なれど
君とわれ葵《あふひ》に似たる水草の花のうへなる橋に涼みぬ
召されては宿直《とのゐ》やつれの手もたゆく草書《さうがき》したり暮れゆく春を
悪名《あくみやう》の果《くわ》あり今日ある因縁の君を見し日は遠世《とほよ》となりぬ
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